|
これまでのまとめ→<絵画論記事まとめ> 引き続き、構図のお話です。 ▼絵画におけるモアレという存在 前回、構図によって起こる視線の無意識の動きと画面との関係を説明しました。(絵画論11 構図の秘密)しかし、前回の範囲でしっかりと構図を考えても、それとはまた別の不都合が起こることがあります。 ▲予定外のものが生まれる現象 「モワレ」という現象をご存知でしょうか。写真や、重ねた細かい模様を印刷すると、元々存在しなかった縞模様が現れてしまう現象です。 又、音の場合でも、マイクとスピーカーの関係で、キーンと高い雑音、「ハウリング」が起こることがあります。 詳しいことは分からないので細かい説明は避けますが、どちらも、「いくつかのもの同士の影響で、そこに存在しなかったものが生み出された(ように見える、聞こえる)現象」です。 絵画でもこれと似たことが起こる場合があります。 すなわち、ものの配置の関係で余計なものが出てしまうのです。 ▲絵画におけるモアレとは その余計なものとは、幾何学的な意味を持つものです。このブログではその現象に「幾何現象」と名付けることにしました。(今、私が勝手に作った名前です。)なにやら難しい表現になってしまいましたが、つまり、丸や、線や、周期的なパターンなどが出てしまうことです。 具体的に見てみましょう。 下の図は有名な視覚のトリックで、G,カニッツアによって考案されたものです。 三角形や円があるように見えるでしょう。 こちらは円と曲線があるように見えます。 注意してほしいのですが、どれも直接その形を書いていないのにもかかわらず、線や形があるように感じてしまいます。、「ものどおしの関係で、直接描いていない形が生まれる」ということです。 しかしさすがに、実際の絵画でこのような極端な錯視現象が起こることはありません。実際に起こりがちなのは次のような例です。 図3は斜めの線が現れてしまった絵画です。このような直線も幾何現象の一つです。 このように、気が付かないまま並んだ線を描いてしまうことは非常によく起こります。この絵の場合でも、今私が指摘しなかった場合、皆さんは斜めの線の存在に気が付かなかったかもしれません。しかし、ひとたび指摘すれば、その存在は誰にでも分かったことでしょう。そして一度その存在を意識してしまうと、多くの方がその線が「気になる」レベルまでいくと思われます。(全員ではないでしょう。) 次の幾何現象の例が下図左です。これは私が描いた、果物が主体の静物画です。一見何も問題はなさそうですが…。 実は、おいてある品々の大きさが皆同じで、形状も重なってしまっています。(右のピンクの線がその「同じ形状」です。)その結果、画面が単調で広がりがなくなってしまいました。同じパターンが出現してしまった幾何現象です。 図1、2、3、4ではどれも似通った形や線により、意味のある幾何学的な形が現れてしまっています。これが幾何現象です。 ▲何が問題なのか この話をすると、10人中10人が「それの何がいけないの?」「それはいけないことなの?」といった反応をします。「きちんと見たとおりに描いた結果、出てしまったことなら、それは仕方のないことではないか」と思うかもしれません。問題は2重にあります。「幾何現象によって絵が邪魔されてしまう」ことと、「そもそも幾何現象の存在に気付いていない」ということです。 1:幾何現象による邪魔 「幾何現象があると悪い」とは言いません。しかし、「幾何現象を消すと、より効果的にものを描くことが出来る」と言えます。幾何現象が出ないように気をつければ、純粋に「描きたいものだけ」を書くことが出来るようになります。 逆に、意識しないで絵を描いていると、付随して幾何現象も出てしまいます。意図した画面とは別の要素が入ってくるので、予期しなかった視線の混乱や緊張が起こります。絵が分かりづらく、散漫になります。 つまり、せっかくの絵が幾何現象に邪魔されてしまう、ということです。描いた絵を純粋に見てほしいときに、余計な要素はないほうがよいでしょう。ただでさえ、キャンパス上にものを出現させるのは大変なのに、それを邪魔されてしまったら興ざめでしょう。 関連:絵画論その8 絵画はイリュージョン 幾何現象を意識しないでものを描いていると、もの以外の幾何現象も出してしまいます。逆に、これを出さないように意識することが出来れば、純粋にものだけを描くことが出来るようになるのです。意識しないと、ものだけを描けないのです。 実際の例で見てみましょう。私は「雲、鳥、山、うさぎ」を描きました。下の図をご覧ください。 この絵を見て、第一印象としてあなたは「ああ、正方形の配置で四つのものが描いてあるな」 と感じたでしょう。しかし、私は具体的に「雲、鳥、山、うさぎ」というものだけを見てほしかったのです。実は正方形の配置などはどうでもよかったのです。こう言っても、あなたは「いや、そう言われても、それらが整然と並んでいることも意識してしまう」と思うでしょう。 幾何現象とはそういうことです。 もしも個々のものだけを見てほしければ、次のような配置にしたほうがより効果的です。 これは意味のない配置です。位置を変えただけですが、純粋に描かれたものだけに目がいくようになったはずです。このように、幾何現象を消すことで効果的にものを見せることができるのです。 前回の「構図の秘密」の後半で、「なるべく避けたい構図がある」と言いましたが、それがこの余計な幾何現象が出てしまう構図なのです。 ただし、必ずしも幾何的な配置が悪いというわけではありません。逆に、別の効果を生むことも十分考えられます。絵に悪影響を及ぼす場合、排除しましょう、という話に過ぎません。 2:本人が気付かないこと 図7の窓から見える風景をご覧ください。電線と庭にあるホースと後方に見える高速道路のラインが似通ってしまっています。この風景を普通に描くと、同じラインが並ぶ幾何現象が出てしまうであろうことは、描く前から予測できます。このように、幾何現象にも誰が見てもすぐ気が付くものもから、図4のような指摘されても「?」となるレベルまで様々あります。 重要なのは、幾何現象が起こってしまうことよりも、それが本人の意図していないところで生み出されてしまうことです。 今回の話で幾何現象について理解できたとしても、自分の絵に起こってしまった幾何現象を見つけることはなかなか難しいことです。描いてみるまでその存在が分からないことが非常に多いからです。実際、図4では私は描いてみるまで気が付きませんでした。 自分で描いた絵がどうなっているのかを理解する目、ミューズアイを育てることがこの絵画論の目的でした。 関連:絵画論その1 自分で描いた絵を鑑賞するということ 幾何現象はある意味、絵画の傷といえます。ミューズアイを育てるためにも、自分が描いている絵に傷があることは気が付いたほうがよいでしょう。 また、絵を描くときに幾何現象を意識することによって、他人の絵画を鑑賞する目も鍛えることが出来ます。名画にはなぜ広がりがあるのか、力強さを感じるのか、その秘密が分かるようになります。余分なものが排除されていることに気が付くことによって、自分にも反映させることが出来るようになります。 ▲髪のハネによる例え 幾何現象は頭の髪の毛のハネのようなものです。 自分の髪の毛がはねていたとしても、自分自身ではちょっと気が付きません。第一、家の中で過ごしているような時は何も問題はありません。 そんなハネも、外へ出かけるときはきれいに直すと思います。他人を見るとその髪の乱れはすぐ分かるし、ちょっと気になったりもします。それで「気が付かない部分が変になっているのではないか…」と改めて自分の髪が気になる方もいるでしょう。 今回の幾何現象もそういうものです。 自分で自分の髪を見る時は、鏡を使うしかありません。この「鏡を通して見ること」がミューズアイにあたります。鏡を使うと自分の髪の乱れを点検できて良いでしょう。 ただし、このとき髪を整えるべきなのかは、また別の話になります。わざと変な形にして目立つのも有りですし、無造作へアというのもありますし…。いずれにせよ、鏡を持つことで、直すかどうかの選択肢が増えたことはお分かりいただけたかと思います。「髪の毛というのはちょくちょく乱れるものだ」ということも常に気にかけておくと良いかと思います。 ▲幾何現象が起こる理由と解決策 脳は、ものを見るときに安定して見えるものを優先的に認識してしまう癖があります。 関連:絵画論その6 地と図は2つで1つ すなわち、正方形や直線というのは非常に分かりやすい記号なので、真っ先に目が行くのです。そのため、幾何現象が気になってしまうのです。 ところが、実際の立体の世界を見るときには幾何現象は起こっていません。 例えば、幾何現象が起こってしまった風景画があるとします。実際にそれを描いた現場に立って、その風景を見ても、何も気になりません。そこに幾何現象があると確認できないのです。 これは、現実のものの距離には互いに違いがあり、同時に焦点を合わせて見ることが出来ないからです。もの同士の影響が出ないのです。キャンパス上(=平面)に写した時に初めて幾何現象が起こります。三次元と二次元の違いがもたらす事故と言えるでしょう。 余計な幾何現象が現れないようするにはどうしたらよいのでしょうか。それは、ものをそろえず、並べず、くっつけず、同じにせず…と微妙にずらして配置させればよいのです。描いている途中でその存在に気付いたときや、動かしようのない風景を描く場合でも、微妙に強弱を付け、位置もずらしてしまいます。とにかく、形が現れないようすればよいのです。それだけの話です。本当にそれだけの話ですが、効果は絶大です。 皆さんもぜひ試してみてください。 ▼視線の動きを意識して どのような絵でも、見る時に視点の動きが起こっています。 絵の中に強いもの、強い色があれば、そこに視点がフォーカスされ、ある時間とどまります。絵の中に線があれば、その線に沿って視点は移動します。また、目立つポイントがいくつかあれば、視点はその間を行き来します。 ところが、脳は自らの視点の動きには無関心、無自覚で、見たものしか意識しません。今言ったことも皆さんはしているはずなのですが、まず気が付いていなかったことと思われます。 上の絵をご覧ください。皆さんはまず右のうさぎを見て、次に左のうさぎを見て、その次に真ん中の梅の実を見て…、という順序で見たのではないでしょうか。それは、私がそうなることを意識して、そうなるように描いたからです。しかし、このように指摘しても、自らの目の動きを意識することはまだ難しいでしょう。普通は誰もしないし、考えもしないことのようです。 注意:絵の部分部分を意識的に見ていくときは、絵の持つ視線の流れというのは(当然ながら)なくなります。さすがに人の意思を変えることまではできません。ここで言っているのは、無意識に全体をぱっと見たときの話です。 構図というのはこのような無意識の視線の流れを整理するためにあるのです。 ▲視線の制御が出来ない絵 上の図8の絵で視線の話をしましたが、「顔を描いたら、(どのように描いたとしても)まずそこに視線がいくのは当たり前だろう」と言われてしまいました。ということで、そうならない絵を描いてみました。 できれば画像をクリックして、大きくして見てください。一見普通の絵です。しかし、顔にも、どこにも視線が定まらないはずです。(ちょっと分かりにくいかもしれません。)この絵のように、視線の流れ(優先順位)を考えず、画面全体を同じエネルギーで描くと、視線が定まらなくなることが多くなるのです。 ▲構図と都市計画 視線の話を踏まえて、一枚の絵画を都市に例えてみましょう。 新しく都市を作る場合、いかに隅々まで移動できるかが大切になってきます。中心を決め、繁華街、公園、地下、空港など立体交差にしたり、広い道路を設けたり、わざと車を入れず不便な地区を作ったりといろいろ考えることができます。このように交通網を考えて都市計画を立てます。 絵画でも同様のことを考えることができます。構図は都市計画、視線は交通網に当たります。計画的に都市を作るように、視線の流れを意識して絵画の構図を考えることができます。 しかし、都市を図面の中だけで計画していても、実際には魅力のないつまらない都市になってしまうこともあります。良い都市計画≠住みやすく魅力ある都市、とはならないのも事実です。同じことが構図にも当てはまります。こんなこともあるのか、ぐらいに思っておくのがいいでしょう。 以上、構図のお話でした。 しかし、改めて確認しておきますが、これは構図というきわめてせまい範囲での話です。 絵画芸術の広い世界では、いい構図が必ずしもいい絵になるとは限りません。説明してきた構図の話も、ものを効果的に描く為の一手段に過ぎません。今回の説明したことと間逆のことをすることもあるでしょうし、バランスや理屈を無視した、構図のない構図というのも考えられます。 図10は有名なマグリットの作品です。建物の塔と後ろへ伸びる道路の形が同じになっています。これは今回説明した幾何現象の存在を明示的に描いた作品でしょう。不思議な雰囲気をかもし出しています。彼は意識して幾何現象を出現させたのです。 AさんとBさんまったく正反対な活動をして両方成り立つのが芸術の世界です。だからこそ絵の世界は深く、興味が尽きません。ただ、私たちはミューズアイを育て、どちらの世界も眺められるようにしたいものです。 次回は遂に「立体の世界」です。 ★うさうさ堂の絵画論の一覧→<絵画論記事のまとめ> 絵画論原稿担当から:図4の例は難しいかもしれません。私にはちょっとわかりませんでした。過去のいろんな話とリンクするようになって、今まで何を書いてきたのか混乱してきました。 |
| << 前記事(2011/03/14) | ブログのトップへ | 後記事(2011/03/27) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
<絵画論記事のまとめ>
これまでの絵画論の記事のまとめです。 ...続きを見る |
うさうさ堂blog 2011/03/21 22:56 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
う〜〜む、「絵の描き方」を扱っている本で、ここまで書いてあるのは珍しいと思います。やはり実際に他人に絵を教えていて、何かムズムズする点があったんですねぇ・・・これはこれで貴重なことだなぁ・・・ |
マミケン 2011/03/22 09:08 |
| << 前記事(2011/03/14) | ブログのトップへ | 後記事(2011/03/27) >> |