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zoom RSS 絵画論その8 絵画はイリュージョン

<<   作成日時 : 2010/03/11 14:22   >>

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(いきなりですが、以下の数行は飛ばしてもらっても結構です。)

マーク・ロスコ(1903-1970 アメリカ)という画家は、自らの美術論集(みすず書房)の中で「目に見える周りの世界をまねて本物そっくりに描くというのが絵画の本質ではない。絵画は自己の表現でありコミニュケーションでもある。絵それ自体が現実として存在しなければならない。表面より内面の中に真の美が存在している。技巧をひけらかすものは真の芸術的動機を持っていない」のような趣旨を論じ、さらに彼は本物のように真似て写すことを「イリュージョン」という言葉を使い、奇術師(マジシャン)のように見物客を幻惑、錯覚を作り出し、目をくらませ、驚かせるだけの絵画に苦言を呈していました。

奇術師 コントロール


彼の考える絵画の本質は難しいし、私にはよくわからないのでここで論じることはしません。
ただ、「絵画はイリュージョン」という言葉が気になったので、この関係について、私なりに考えたことを話してみます。

立体を平面で表すのが絵画

私たちの生活している世界は奥行きのある空間の中にあります。
一方、絵は平らな紙や布に色を付けることでいろいろな変化を楽しむ視覚遊戯の一種です。
何気なく引いた一本の線が木に見えたり地平線になったり、さらに複雑にすると星空や海の中や行ったことない想像の世界、物語の一場面、さらに感情までが絵の中に現れます。

騙し騙される心地良さ

これは、いい意味で絵を見る人の目を騙し、脳や感覚までもが騙されているのです。絵を見たり、描いたりすることはお互いに騙し騙される関係でもあると思います。

前回の「飛び出す絵と引き込む絵」の所で、実際には平面に描いた絵が何かの作用で奥行きをもち、引き込まれたりものが飛び出して見える話をしました。
これも絵画の持つトリック性で、見る人が錯覚を起こしているから起こることなのです。

モネの絵の不思議

具体的な体験を紹介してみます。30年以上も前、私はフランスのオランジュリー美術館で不思議な体験をしました。部屋の壁全体にかけられたモネの睡蓮の絵。池の水面が光り、睡蓮が浮いています。本当に池と睡蓮があるような現実感、もっとよく見ようと近づいてみると、ある地点(約1.5m付近)で突然今まで目の前に広がっていた水面がただの絵の具に変わってしまいました。どう見ても睡蓮に見えません。いろいろな色の絵の具が塗りつけてあるだけです。あまりの不思議さに1mから2mの間を行ったり来たりしました。その度に睡蓮になったり、絵の具になったり変わりました。(長い間そうやって遊んでいたらいつの間にか守衛さんが後ろに立っていました。)

モネの睡蓮


絵はおどろき度で価値が決まる

このように、私たちの目がだまされる(おどろき)度合いが大きいほど人は大きな刺激が脳に与えられ、それが感動や心地よさに変わり強く印象付けられると考えられます。
名画を残した画家達は最高の催眠術師だといえます。

さて、絵は脳を騙すことということはわかっていただいたと思いますが、具体的には何をしているのでしょうか。それはすばり「視線のコントロール」です。

と、言われてもほとんどの人がピンと来ないでしょう。絵画を見たとき、自分の視線が勝手に動かされたという覚えはないはずです。その無意識さこそが催眠術と呼んだ理由なのです。

名画は一瞬にして視線を虜にします。見る人の自由を奪い、思い通りに動かします。そして絵の中の経路をコントロールにして視線を外させない力を持っています。

視線を(無意識のうちに)コントロールすることで、見る人を絵の世界に入れてしまいます。
それでは視線のコントロールが出来ていない絵ではどうなるのでしょうか。私たちは絵を見てもあちこち目移りしてしまい、脳がだまされることもありません。現実の世界から離れることもできません。

このことは、同じようなものが描いてあって、どちらもうまく描けている見えるが、心に響く絵と感銘を受けない絵との差になって現れます。

絵の比較


絵の専門家は(そんな人がいるかわからないが)ここの色が悪いとかこれがジャマだとか構図がどうとか批評しますが、あれは全て視線を整えるための整理整頓の指示なのです。

なので、よく描けた絵でも「ほんの小さな乱れ」があったならば催眠術の破れとなり、現実(ただの絵の具の集まり)に引き戻されてしまいます。このことを強調しておきます。

名画といわれてるものは最高のだましのテクニックを使っています。それは使っているということを相手に気付かせないテクニックでもあります。
それはマジシャンが仕掛け(手品のトリック)がわからないよう何気なく演じる動作に似ています。
いくらうまく演じていても、タネが見えてしまっては不思議さや驚きは感じないでしょう。


絵の勉強とは

このようにして考えていくと、言葉は悪いですが、いかに見る人に錯覚を起こさせトリックを仕掛けだますか(だまされるか)を研究、練習するのが絵画の勉強だとも言えます。

絵の勉強 脳を騙す


単に「紙の上に絵の具が塗ってあるだけ」ということに気付かせない方法を絵画技法と呼んでいます。古今東西の絵画技法(テクニック)は全て「いかに錯覚を起させるか」という方法に言い換えることができます。

さらに、人にトリックをかける絵画技法そのものが芸術と呼ばれるものになります。「芸術」の「術」はトリックのことです。その術の効力の度合いが高いものが優れた表現法と呼ばれ、芸術性が高いと言われ、その術をかけた人が芸術家と呼ばれることになります。


トリックもいろいろ

「絵画=錯覚」という主張について多くの方が疑問や反論を持たれることでしょう。

「子供の絵はどうなのか、絵の勉強をしていなくても素晴らしいぞ、感動するぞ」
「裸体にペイントして転げ回った、それは迫力があって心に響いた」
「仏さまのお姿は心がなごむ」
「縁起のいい絵は元気が出る」
「犬の絵は大好き」
「砂漠に色を吹き付けた、時間がたつと変化して美しかった」
「好きなスターの直筆の絵はいつ見てもワクワクする」
などは私が今まで話していたことに当てはまらないものはたくさんありそうです。

子供の絵 親



それは象徴や記号、印、文字の持つ力、宗教や長い間の共通の習慣、肉体を使った表現などの持つ強さなのかもしれません。
広い意味でこれも脳をだますトリックの一種だといえますが、絵画を省略、凝縮した記号などの話は別の機会にします。
絵画論第2回の「いい絵」と、それを調べる最も簡単な方法 も参考にしてみてください。



どうすれば視覚を奪い制御できるのか、視線を奪われて催眠にかけられるとはどういう状態をさすのか、名画を見た時とそうでない絵を見た時の視線の違いはどうなっているのかなど、具体的なお話はまたの機会にしたいと思います。

次回は「十兎図」です。

うさうさ堂の絵画論の一覧<絵画論記事のまとめ>


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時

う〜〜む、これ以上ないうさうさ堂さんの絵画世界の解説になってますね。あれだけ1つの絵画世界を描くには、自分なりに確立した方法論があるということですね。

自分独自の物の見方を確立することが、絵を描く以上に大切になってくるのですね。
マミケン
2010/03/11 15:48
すばらしい! 深いです。
 視線のコントロール・・・・・私にはまだまだ難しい
 この絵画論、松本教室のみんなに知らせなきゃ・・・
 といっても・・・・・
せっちゃん
2010/03/16 14:20

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